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千葉地方裁判所 平成7年(行ウ)12号 判決

原告

徳山輝男

(ほか一一名)

右訴訟代理人弁護士

小林健二

被告

習志野市長

右訴訟代理人弁護士

田宮甫

堤義成

鈴木純

吉田繁實

白〓麻子

田宮武文

小林幸夫

理由

一  争いのない事実

原告らが本件土地の近隣に居住する住民であること、被告が本件開発許可処分をしたこと、習志野市が公有地の拡大の推進に関する法律五条一項により本件土地を三代川から買い取り、そのうち本件一の土地を三橋に売却して所有権移転登記手続をしたことは、当事者間に争いがない。

二  審査請求前置主義違反(被告の本案前の主張1)について

都市計画法五〇条一項は、開発行為許可処分についての審査請求は開発審査会に対してすべきものとし、同法五二条は、開発行為許可処分の取消しの訴えは、審査請求に対する裁決を経た後でなければ提起することができないとして、審査請求前置主義を採っている。その趣旨は、開発行為許可に対する不服審査は、第三者による公正な判断が必要とされ、かつ専門的技術的知識を要する場合が少なくないことから、訴訟に持ち込む前に専門的な審査機関による行政上の再検討を行うことが適当とされたものと考えられる。

ところで、原告らが本件開発許可処分についての審査請求の手続を経ていないことは、当事者間に争いがない。

そこで本案の判断に先立ち、原告らが本件開発許可処分について審査請求の手続を経ていないことにつき、行政事件訴訟法八条二項二号、三号所定の各事由があるかどうかを判断する。

1  まず、行政事件訴訟法八条二項二号の事由があるか否かを検討する。

(一)  行政事件訴訟法八条二項二号は、「処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき」には、法律で審査請求前置主義を採っている場合においても裁決を経ないで処分の取消しの訴えを提起することができるとしている。右にいう「処分……により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき」とは、同項一号で審査請求があった日から三箇月を経過しても裁決がないときには裁決を経ないで提訴することができるとされていること、及び同法二五条二項で「処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき」は裁判所は右処分等の執行停止をすることができるとされていることとの対比からすると、当該処分等により回復困難な損害又はこれに準ずる程度の損害が生ずるおそれがあり、審査請求に対する裁決又は審査請求後三箇月の経過を待っていては右損害を避けることができなくなるほどに出訴の必要性が差し迫っている場合をいうものと解すべきである。

(二)  〔証拠略〕を総合すると、本件開発許可処分と本件訴訟の経緯について、次の事実が認められる。

(1) 前記のとおり、平成七年二月二三日本件開発許可処分がなされたが、本件開発行為の工事予定期間は平成七年三月一日から平成八年一月三一日までとされている。

(2) その後同年三月九日付けで、原告らの一部の者により習志野市監査委員に対する監査請求書が起案されて、監査請求の手続が用意された。

(3) そして、同年三月二三日、本件訴訟が提起された。

(4) 本件開発行為の予定建築物である営業用マンションについて千葉県建築主事により同年三月二九日付けで建築確認処分(第一六号、習志野市)がなされたところ、右建築確認処分について原告らの一部が同年五月二日付けで千葉県建築審査会に対して審査請求をしたが、右建築確認処分が建築基準法の要件を充たしていることは明らかであるとして同年六月八日付けで棄却された。

(三)  ところで、本件開発許可処分によって著しい損害を被ると原告らが主張するところの内容は、本件開発行為及び営業用マンションの建築による近隣居住者としての環境被害であるところ、右被害について、原告らは前記請求原因3(二)(2)(3)のとおり主張するが、右は被害のおそれを抽象的に主張するのみで、被害の具体的内容、回復の困難さないし損害の著しさ、審査請求に対する裁決又は審査請求後三箇月の経過を待っていては損害を避けることができない緊急の必要性に関する具体的事情について主張がない。

また、本件の全証拠によっても、原告らが本件開発許可処分によって直ちに回復困難又はこれに準ずる程度の重大な居住環境上の被害を受けるものと認めることはできないし、前記(二)で認定したとおり原告らの一部の者が建築確認処分の方についてはその取消しを求めて審査請求をしていること、本件開発許可処分について監査請求をしようとした事情が窺われること等を併せ考慮すると、本件開発許可処分についての審査請求に対する裁決又は審査請求後三箇月間の経過を待っていては著しい損害を避けることができないほど本件開発許可処分取消訴訟の提起の必要性が切迫していたものと認めることはできない(なお、都市計画法五〇条二項によると、開発審査会は、審査請求を受理した日から二月以内に裁決をしなければならないとされており、また、行政不服審査法三四条によると執行停止の途も開かれている。)。

なお、原告らの主張のなかには、マンション建築の工事禁止の仮処分の申立て等の手段は、原告らに右決定を得るのに必要は保証金等に充てる資金がないので断念せざるを得ないことをもって、行政事件訴訟法八条二項二号にいう「緊急の必要」が認められる旨を述べる部分もあるが、右にいう「緊急の必要」は、当該処分について審査請求をした場合と対比して、裁決を待ったのでは著しい損害を避けることができないほどに出訴の必要性が切迫していたか否かという観点から判断すべきであるから、右主張はそれ自体採用できない。

(四)  以上によれば、原告らが本件開発許可処分の審査請求を経ないことについて、行政事件訴訟法八条二項二号にいう「処分……により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき」に該当するとは認めることはできない。

2  次に、原告らが本件開発許可処分についての裁決を経ないことについて、行政事件訴訟法八条二項三号にいう「正当な理由」があるか否かを検討する。

(一)  原告らは、習志野市における三橋や鈴木の地位等を考慮すると、本件開発許可処分についての裁決を開発審査会に求めたところで、到底本件開発許可処分が是正される見込みはない旨主張する。

しかし、開発審査会における審理及び裁決の手続は、都市計画法に規定されており、個人の影響力によって同審査会における審査手続が左右されるものとは到底考えられないから、原告らの主張は独自の見解に過ぎず、審査請求を経ないことについての正当な理由とはならない。

(二)  また、原告らは、本件土地上のマンション建築確認処分につき原告らが千葉県建築審査会に対して行った審査請求が棄却されたことに照らし、千葉県開発審査会に対して審査請求をしても本件開発許可処分の違法が是正される見込みはない旨主張する。

しかし、建築確認処分の審査請求に対する千葉県建築審査会による審査と開発許可処分の審査請求に対する千葉県開発審査会の審査とは、制度の趣旨目的、機関の構成、審査の内容のいずれの点においても異なる別個のものであるから、前者において棄却の裁決がされたからといって、当然に千葉県開発審査会に対する本件開発許可処分の審査請求が排斥されるということはできない。原告らの主張は採用できない。

(三)  したがって、原告らが本件開発許可処分につき審査請求を経ないことについて、行政事件訴訟法八条二項三号にいう「正当な理由」があるとは認められない。

三  結論

よって、原告らの本件訴えはその余の点につき判断するまでもなく不適法であるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩井俊 裁判官 堀晴美 大西達夫)

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